――カキーン ボールが宙に舞う。それはフェンスを直撃し、バッターは3塁にヘッドスライディング。 一瞬の沈黙の後、審判が大きく手を横に開き、スタジアムが歓声に包まれた。 「………律子」 「どうしたんですか、プロデューサー殿」 ダボダボの黄色と黒の縦じまユニフォームを着て、チームの帽子まで被った律子。 待ち合わせた時、いつものおさげではなく左側でひとつ結びをしていた律子に驚いたのだが、単に 帽子を被りやすいようにする為だったらしい。 律子は返事はしたものの、こちらなど見向きもせずに白球に集中している。 「律子、コンサート会場の下見がしたいから付き合ってくれって言ったよな?」 「ええ、だからここがその会場ですってば――あっ」 ボールが内野手の頭を越えて、3塁ランナーがホームイン。ビジターにもかかわらずスタジアムの 半分が黄色いメガホンに染まり大いに沸いた。 「やっぱり先制点はこっちだったわね、あのピッチャー前の回から所々失投が目立ち始めてたし」 「あの〜…律子さん、盛り上がりのところ悪いですけれど、下見と聞いてスーツで来たのですが」 スーツの男と応援ユニフォーム一式を身につけた女の子が並んで観戦するなんて、なかなか異様な 光景である。客席をパンで撮るものなら目立ってしまいそうだ。 球場に来るならそうと言ってくれればよかったのに。せめて「ラフな格好で」の一言さえあれば、 こんな状況にはなっていないだろう。 「ま、いいじゃないですか。細かい事は気にしない、気にしない」 気にするぞ普通!と内心で即突っ込みを入れた俺。……いかん、律子の突っ込みが身に染みてしま っているな。 小さく苦笑いをしながらチラリと左隣を見ると、応援してるチームの2点目に喜ぶ律子の姿。 なんだかそんな楽しそうな律子を見ていると、暑さなんてどうでもよくなってきた。ま、いっか。 体感温度39度、とろけそうだけど