「てゆーか大佐。」 てゆーか。この言葉が示すところの意味。どうでもいいということ。 大佐と話すことなんて二の次二の次。今はこのカードをチェンジするかどうか考えててすっごく忙しいの。 わたしは微妙に重なった5枚を左手で持って、口元を隠しながら右手で左から2枚目を引き抜……こうとしたけどやっぱりやめた。 チェンジ次第で結構いい感じになりそうなだけ、ここの選択は重要なものになる。 「はいはい、待ったはなしですよ。1回勝負ですからね」 コーヒーを一口啜り、大佐がわたしに言う。この言葉がただのハッタリなのか本当に余裕があるのかはわたしにはわからない。 だいたいいい役がくるのに待ったとかしないってば。大佐はあんまり良くないのかな。 テーブルの向こう側で何食わぬ顔をして座っている姿は、カジノで隣に座ってくれたら心強いんだろうなーって思うけど、やっぱり机を挟んでは座りたくない。 敵に回したくないんだけど、ここでケテルブルクホテル裏名物のフルーツミックスをみすみす逃すつもりもない。 「チェンジはありません。」 「そうですかーっと。」 ふうん、大佐1枚も変えないんだ。意外と保守的。わたしは右の2枚抜き取ってチェンジをする。 (勝ちは決まったものだね。) 引きはだいぶ良い。ツキはわたしにあったようだ。思わず鼻歌なんて歌いたい気分になったけど、手持ちのカードで表情を隠すことも忘れてない。さっすがアニスちゃん。 「じゃあ、せーので開けますよ。」

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「ロイヤルストレートフラッシュ!?」 「正式名称はロイヤル・フラッシュというそうですが、それですねえ。」 自信満々で出したカードを宙に放り投げた。大佐がはっはっはとわざとらしく笑う。ああそうだこの人はこういう人だったんだ忘れてた。全身を一気に脱力感が襲う。 「アニス、負け惜しみはよくないですね。そうだ、私が勝った場合のお話をしていませんでしたねえ。」 「わかりました負けましたじゃあわたしもフルっ…!! 大佐の顔が突然大きくなって、左頬を冷たい眼鏡のフレームがかすめて、あとはくちびるに苦いけど柔らかい感触。 「ごちそうさまです。またやりましょう。」