噴水前で待ち合わせ。 この日の為に仕立てさせた深紅の胸元が大胆に開いたドレスに身をつつむ。 ドレスの色にあうような今年の新色の口紅。 グランコクマで発売後すぐに売り切れてしまってなかなか手に入らない品。 斜め上から射すあたたかい光に、噴水の水がきらきらと輝いてみえる。 待ち合わせ場所につくと、彼がニコニコと笑っていて。 「ハニー、待たせてしまってごめんなさい。」 「私も今来たところだよジーナ。…綺麗だ。」 「まぁ、嬉しい。ありがとう。」 ハグをして、左の頬、右の頬と順にキス。 手をつなぎ、街の南の方へと、歩いてゆく。 ―そのとなりにちいさいかげがひとつ。 噴水前でまちあわせ。 いつも着ている桃色の教団服を着て背中にはトクナガ。左腕の部分がすこしほつれてる。帰ったら直さなきゃなあ。 リップはしてるけど、口紅をするには自分の年齢ではまだ少し早い。 (あ、ナタリアは例外ね。私の年の時には公務でお化粧をするのが当たり前だったっていうし) でもさでもさ、やっぱり興味はあるじゃん?"グランコクマ、春の新色!"とかポップがあったら見ちゃうでしょ。 それを見てあのおっさん何を言ったと思う? 『アニスには似合いませんよ。』 何このデリカシーのなさ!アニスちゃん信じらんない! 今だって、1時間も待ってるのにちっとも来やしない。 だいたいそっちから美味しいケーキ屋さんを見つけたから一緒に行きましょう、なんて誘ってきたくせに! 忙しいなら忙しいなりに約束なんかしなけりゃいいのにさ。 「おや、アニス。まだ居たんですか。」 噂をすれば、なんとやら。 足元の小石を蹴ると、とんとんと転がって行って、いつも通りの青にマルクトの金の刺繍が入った軍服を着て現れた大佐のブーツの先に当った。 「隣できれいーな格好した女の人と、スーツ着た男の人が待ち合わせしてて、なんか2人だけの世界、って感じですっごく居心地悪かったんですから。」 ふわふわのクリームに新鮮なフルーツ。ほどよい甘さが口の中でとろける。大佐が最近見つけたというケーキ屋さんは当たりだった。 「ハグして頬にキスしてて。こっちではめずらしくないんでしょうけどダアトではそんな風に挨拶しませんし。」 大佐が来るまでの話をしながら、ショートケーキのイチゴにフォークを差したら、急に笑い出した。 「なんで急に笑うんですか。」 「アニス。あなたには少し待って私が来なかったら帰るように言いましたよね?」 「う……」 イチゴを口の中に入れようとしてやめて、フォークを差したままケーキの隣に置く。 「しかもそんな隣にひとりで居たくない状況になってまで私のことを待ってくれていた。」 「それは、べつに……」 「よっぽどケーキが食べたかったんですか。いや〜、アニスは色気より食い気ですね。全く。」 急に緊張感が抜けて身体中を脱力感が襲う。 「…おや、どうしたんですか。」 「大佐の奢りですからね。」 なんだかずっとモヤモヤとしていた気分の自分がばかばかしくなって、ケーキを食べるペースをあげた。 「はいはい。」 「ルークとティアとナタリアとガイとノエルの分もお土産に買って下さいね。あ、あとミュウの分も。」 「チーグルは草食ですよ。」 最後の一口をほおばって、フォークを置いた。 「ごちそうさまでした。」 手鏡を出して口の周りが汚れていないかチェックして、リップを軽く塗る。 「アニス。それ、もうなくなりそうでしょう。新しいのを先日買っておきましたので差し上げます。」 「それと、ひとつ。いい事を教えてさしあげましょう。いい事かどうかはあなた次第ですが。」 「どーゆー意味ですか、それ。」 「私は口紅が嫌いです。ミントの香りのするリップクリームぐらいがちょうど良いです。」 いつの間にかシフォンケーキを完食していた大佐が、口直しと言って私のくちびるに触れた。 100ガルドのさわやかリップを君に