「また来ます。」と挨拶を済ませて墓地を出た。 帰宅ラッシュと時間が重なってしまったけれど、幸いにも寮があるのはこの駅からだと上り方面にあたる。 電車に乗り、反対側のドアに寄りかかりつつ、携帯を開く。また増えてる。 新着メール12件という見慣れぬ表示で始まった今日。 どうせ学校ですぐ会うのにな、と思いつつも友達からもらう誕生日メールはやっぱり嬉しいもので。 誕生日用のテンプレートを使った派手なもの(意外と大人しい子からだったので驚いた) 寮の部屋ぐるみで送ったであろう一文字ずつ件名に入って、本文は空の連続したもの(「おでめとう」になってる……) サッカー部の知り合いからの勧誘メール(夏合宿前がラストチャンス!ってポロニアンモールのセールじゃないんだから……) だいたいは中学生らしいメールだけど、そこにちょくちょく大人っぽいメールが挟まる。 2年前に一緒に戦った高等部の先輩達だ。 今は高等部を卒業していて、大学に行ったり桐条関係のところにいたりするらしいけど。具体的にどうしているのかわからない人もいる。 風花さんからのメールにはコロマルの写真が添付されていて、ゆかりさんのメールからは元気にしている様子が伝わってきて。 美鶴さんからは誕生日についてと、今年の夏休みについての用件。これは後ですぐ返信しないと。 見慣れないパソコンのアドレスは、アイギスさんからだった。 「天田少年よ!大志を抱け!」って一言だけのメールもあったけど。 最後に受信していたのは、遅れてごめんね!と始まるクラスメイトからのメールで、上ボタンを押しても数カ月前の保存されてる最古の メールに切り替わってしまった。 ……真田さんからのメールはない。 一通り目を通したところで、電車は寮の近くの駅へと停車した。 改札を出て、徒歩10分かかるか、かからないかぐらいの寮に向かって歩き出す。 時計を見るとダッシュしなくても実質の門限である夕飯には間に合う時間だった。まあ、ちょっとギリギリだけど。 もう一度携帯を開いて真田さんからのメールがないか確認する。……来ていない。 大学が忙しいんだろうか。 いや、そもそも忙しい忙しくないに関係無く、「マメさ」に関してはほとんどないに等しいと言っていい人だ。 分寮で生活している時も、主に美鶴さん……と荒垣さん、に何かと怒られては「スマン、忘れてた」で片付ける事が多かったと思う。 でも、そんな人だからこそ、去年連絡をくれた時は嬉しかった。 明後日暇か?という唐突にも程があるメールだったけど、それも先輩らしくて大学に行っても変わらない様子に少し安心した記憶がある。 ……よくよく思い出してみれば、その去年の帰りに来年も行こうなと口約束をした気もしなくもない。 1年って長いものだし、色々変わるし、今更そんな口約束を破られたからって、駄々をこねる気はない。ないけれど。 なんだか少し寂しいじゃないですか! そんなやり場のない思いを心中でぶちまけたところで、ふと数学のノートがあと少しでなくなりそうなのを思い出した。 今から買いに行くのも時間的に無理だ。誰かが同じものを買い溜めしてたら1冊分けてもらおうと考えていると。 寮の明かりが見えてきた。部屋の電気はまばらだ、天田の部屋も電気は付いていない。みんなラウンジかなんかでTVを見てるんだろう。 玄関の前にすらっとした人影が見える。だいぶ背が高い。180cmはあるんじゃないか。 高等部にいる誰かの兄さんだろうか。近づいたら何かご用ですか?と話しかけてみようか、そんな事を考えていたら。 その人影はこともあろうにボクに向かって軽く手を挙げた。まさか! ボクはダッシュでその人影に近づいた。 「真田さん!こんな所で何してるんですか!?」 「天田を待ってた」 その人影はやはり真田さんで、ボクの驚いた様子にも平然としていて、質問にもサラリと答えた上で、更にこう付け足した。 「天田、これからメシでもいかないか?」 突然の展開すぎて頭がイマイチついていかない。いや、真田さんがわざわざ来てくれたのは嬉しい、でも。 「……ボク、今この寮で団体生活してるんですけど。ちなみに門限まであと10分です。」 そうやって返すのがやっとだった。 「そうか、じゃあな。」 ボクの頭の上にポンと手を乗せて、真田さんは駅方面に歩き出した。 「ちょ…ちょっと待って下さいよ!」 「門限まで10分なんだろ?」 振り返って、自分の腕時計を指さしながら言う真田さん。 「明後日!明後日の日曜日、空いてますか?」 「ああ」 「先輩の所に会いに行きます!」 「……わかった」 「ちゃんと時間とか連絡しますからね。」 念を押したようにそう言って、天田は寮へ入った。 自分に割り当てられている部屋へと戻り、電気をつけた瞬間、パンパンパンと連続した乾いた音。 顔に貼りついた金色のテープの位置が絶妙で、爆笑し出した同室3人につられて、天田も声を出して笑った。 11.6.24